【『分離の時代』がもたらした愛】

「わたし達が抱く感情はすべて、
『愛』『恐れ』のどちらかに分ける
ことができる」
と、わたしは言った。

坊やは小さな頭をかしげ、
『愛』『恐れ』に?」と言い、
言葉を続けた。

「うーん…。
『嬉しい』とか、『幸せ』とか、
『感謝』とか。
そう言う感情は『愛』の一種って
気もするけれど…。

『嫉妬』とか『責め』とか
『寂しい』とか
こうした感情もまた、
『愛』か『恐れ』のどちらかなの?」

「ああ、そうだ。
『嫉妬』とは
他者の幸せによって
自分の何かが奪われると錯覚し、
そいつを恐れて、起こる感情。

『責め』もまた、誰かの行いで
自分や周囲の人間が、
不利益をこうむると恐れ
湧き上がる感情だ。

『寂しい』もそう。
誰にも理解されず
愛されていないと感じることを、
恐れている。

一般的にネガティブと言われる感情は
すべて根源に『恐れ』がある。

君が言うように
『幸せ』とか『感謝』とか、
一般的にポジティブと言われる感情は
すべて根源に『愛』があるんだな」

「そう言われるとそうかもしれない…」
坊やは納得した様子で言葉を返した。

「わたし達はもう長いこと、
『分離の時代』を生きてきただろう?

この『分離の時代』
人類にもたらしたものが
なんだかわかるかい?」

坊やは少し考えて、
「それはきっと、数多(あまた)の
『恐れの感情』の体験かな」
と答えた。

「ああ、そうだ。

『分離の時代』とは、
自分と他者を分け、比較し、
その差を推し量る時代

見た目の美しさ、お金の量、
社会的地位、人々からの人気…。

その優劣を比べて、
勝った負けた、
上だ下だと一喜一憂する。

そこにあるのは
優越感と劣等感。

見下したり、卑下したり、
恨んだり、嫉妬したり、
責めたり、憎んだり、悲しんだり。

こうした『恐れの感情』たちを
味わい尽くすために、
『分離の時代』は誕生したんだ。

お陰でいろんなものが生まれた。
戦争・犯罪・暴力・拷問・差別…
その体験の中で、わたし達は
幾千幾万のあらゆる『恐れの感情』
味わい尽くした」

「なんだかモクちゃんは、
僕ら人間が『恐れの感情』
欲しがったみたいに言うんだね」

「ああ、そうだとも。
わたし達は文字通り、
『恐れの感情』を欲しがった」

坊やは驚いて、聞き返した。
「また、どうしてそんなこと…」

『愛』を深く深く、知るためさ」

「…『愛』を知るため?」

わたしはうなずき、
ゆっくりと言葉を続けた。

「わたし達の魂が
分離の時代』を作り出す前。
『恐れ』と言うものを
全く知らなかったころ。

わたし達は宇宙と溶け合い、
ワンネス(ひとつ)だった。

宇宙と、源と、
わたし達は一つだったんだ。
その時はさ、ターナ。
わたし達は『愛そのもの』だったから、
愛を知らずにいた

「え?どう言うこと?
『愛そのもの』だったなら、
愛を誰より知る存在じゃないか」

「うん。そうだね。
そいつもまた真理だ。

わたし達は、
わたし達の素晴らしさを
知らずにいたと、言った方が
良いかもしれない。

喜ぶこと、慈しむこと、
信じること、
ときめくこと、ワクワクすること、
感謝すること。
そのすべてが当たり前で、
『愛』の素晴らしさが分からなかった。

平素暮らしているわたし達が
空気の素晴らしさに気づかないのと
同じさ。

我々人間は水に潜って初めて、
空気がどれほど
自分たちに安らぎ自由
健やかさ
もたらしていたかを
知るだろう?

水の中の危険
その不自由さ
そいつを体験し、初めて
空気の素晴らしさを知る。

同じことが、
『分離の時代』にも起こった」

「…そうか。
『危険』を体験し、
初めて『安全』の意味を知る。

『不自由』を感じて、
初めて『自由』の素晴らしさが分かる」
坊やはかすれた声でそう言った。

「もう分かっただろう?

こいつは
あらゆる『恐れの感情』体験
言えるんだ。

『信じること』の尊さを
知るために、『裏切り』を体験する。

『平等』の美しさを知るために、
『差別』を体験する。

『仲間』の素晴らしさを知るために、
『孤独』を体験する。

『母の愛』を知るために
『母の残酷さ』を体験する。

『父の愛』を知るために
『父の暴力性』を体験する。

こうして、『愛』の裏面を
成している『恐れ』の感情を
味わって初めて、
『愛』の真の素晴らしさを
知るんだな。

それもさ。
ただ、知識や情報として
知るんじゃない。

地球に降り立ち、
この生身の肉体と心で
味わい尽くす、
『体験』と言うチャレンジによって
深く理解する」

わたしは、
多くの魂たちに敬意を表したい
気持ちで、そう言った。

「チャレンジャーな魂たちは、
よりたくさんの『愛』を
深く知るために、
過酷な人生を選んだんだね。

そうして数え切れないほどの
『恐れの前提』を作ってしまった…」

「そう言うことさ」

坊やは微笑んだ。
「僕、少しホッとした。
動けない僕の中にある『恐れの前提』
なにか僕が悪いことをしたせいかと
思ってた。

『恐れの前提』ってのは、
『愛』を深く知りたがった僕の魂の
勲章みたいなものだったんだな…」

 


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